八卦拳解説

 日本孫氏太極拳研究会で行っている八卦拳について、ごく簡単に解説する。八卦拳は流派によりかなり内容が異なるので、ここに紹介するのはあくまで孫祿堂先生から伝わった八卦拳であることをお断りしておく。詳細や疑問点は、教室で質問されたい。

1. 八卦拳の概要

 太極拳、形意拳とともに、内家三拳の一つに数えられる。
 清国末に董海川先生によって世に知られるようになったが、それ以前のことは定かでない。董海川先生の弟子には、程廷華、李存義、尹福、馬維祺、魏吉、宋永祥、宋長栄、劉鳳春、梁振普、張占魁、史六、王立徳などの各先生がいる。
 伝承により、内容にかなりの違いがある。孫祿堂伝の八卦掌は『中国武術拳械録』に「孫氏八卦掌」として載っている。

 八卦拳は八卦掌と呼ばれることが多いようである。孫剣雲老師が後藤に語ったところによると、「拳種を言うときに「某々拳」という言い方をするのであり、八卦拳は全て開掌で行うため八卦掌とも呼ばれる。握拳による技が無いからといって「某々拳」と呼べないということはない」ということである。孫家の中でも、八卦拳と八卦掌のいずれも区別せずに使っている。
 ただし『中国武術百科全書』には「八卦拳」は全くの別の拳種として出ている(『中国武術拳械録』には「八卦掌」のみ記載があり、別拳種としての「八卦拳」は載っていない)。

 日本では「はっけしょう」と呼ばれるのが一般的なようである。易の専門家は、「八卦」を「はっか」と発音しており、「はっかしょう」と呼ぶ人もいるようであるが少数派と思われる。
 元々の中国語の発音はどちらでもないわけだから拘ることもないと思われ、当研究会では「はっけけん、はっけしょう」と呼び習わしている。

 直線的で単純簡明、質実剛健な形意拳に比べて、八卦拳の技法は曲線的で変化無窮、融通無碍、と言われる。
 理論的基盤は「易」であり、陰陽の変化を体現している。無極に始まり、太極、両儀、四象、八卦、六十四卦と変化の次元が増えていく。
 技は全て開掌で行い、掌打、投げ、関節、蹴りなどの技を曲線的に歩きながら繰り出す。
 練習法は通常、走圏といって円周上を歩きながら行う。

 武器は孫祿堂先生より伝わった八卦剣(単剣)と孫剣雲老師創編の八卦剣対練がある。八卦槍は惜しくも失伝した。

 蹴り技は秘して他には見せないことになっている。七十二暗腿、七十二暗脚と呼ばれるように、多彩な蹴り技がある。「七十二」は「多い」ということを表す数字であり、実際はもっと多くの技があると聞いている。

2. 孫氏八卦拳の系譜

董海川 → 程廷華 → 孫祿堂 → 孫剣雲 → 後藤英二

 孫祿堂先生は、李魁元先生、郭雲深先生について形意拳を修めたのち、程廷華先生に師事して八卦拳を学んだ。

3. 技法の構成

 孫祿堂先生から孫剣雲老師に伝わったのは以下のとおりである。

【徒手】

(1) 単換掌      ・・・ (両儀に相当)
(2) 双換掌      ・・・ (四象に相当)
(3) 乾卦獅形掌    ・・・ 獅子掌(以下、八卦に相当)
(4) 坤卦麟形掌    ・・・ 返身掌
(5) 坎卦蛇形掌    ・・・ 順式掌
(6) 离卦鷂形掌    ・・・ 臥掌
(7) 震卦龍形掌    ・・・ 平托掌
(8) 艮卦熊形掌    ・・・ 背身掌
(9) 巽卦鳳形掌    ・・・ 風輪掌
(10) 兌卦猴形掌  ・・・ 抱掌

 上記はそれぞれ単独の技である。この十本を、最初は定歩にて行う。熟達したら活歩にて行う。その後、変掌(変化掌)を学ぶ。孫家には決まった套路は無く、変化掌を組み合わせて自由に動く。套路をクラシック曲とすれば、変掌はジャズのアドリブ演奏のごとくである。

【兵器】
(1) 八卦剣
       八卦に相当する八本の技を、掌と同様の順で練習する。
(2) 八卦剣対練(孫剣雲老師創編)
       二人向き合って行う。套路になっている。


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